竹森俊平の文章から

『1997年―世界を変えた金融危機』より 

 

 ナイトがここで明らかにしているのは、「経済自由主義」の短所ばかりではない。標準的な経済学の短所というか、その限界も同時に明らかにしている。つまり、標準的な経済学は、「目新しい現象」、より正確に言えば「過去に類似のことが起こっていない現象」について、ほとんど論ずることができない。たとえば、その現象が社会にとって望ましいかどうかといった判定さえ不可能なのである。その理由は簡単で、客観的な確率分布も分からないものが成功するか失敗するか、学問的な判断はできないからである。

 しかるに、現代は「目新しい現象」に満ちている。「IT革命」、「M&Aブーム」、「エマージング・マーケット」。いずれの出来事についても、確率分布の想定を可能にするほどのデータの蓄積はない。実際、「ニュー・ビジネス」、「企業買収」、「新興工業国」を売り物にするファンドは、「目新しさ」を強調する。目新しいからこそ大きな収益が見込めるというのである。しかし目新しいなら、ナイトの意味での「不確実性」がそこには存在する。そうだとすれば、客観的成功確率に鑑みて、そのような投資が成功するか、あるいは望ましいかといった経済学的判断は下せない。

 

 

竹森俊平『1997年―世界を変えた金融危機』(朝日新聞出版、2007年)102ページ。

 

 

 

 

1997年――世界を変えた金融危機 (朝日新書 74)

1997年――世界を変えた金融危機 (朝日新書 74)