江村洋の文章から

『ハプスブルグ家』より

 

 だがハプスブルグ家では、馬鹿正直なほどに約束を守ることが伝統的だった。カールの祖父マクシミリアン帝など典型的な例だが、誓約を結んだ同盟は必ず遵守するというのが、同家の君主たちに共通した特徴といえる。それははるか後代のマリア・テレジア女帝やフランツ・ヨーゼフ帝に至っても変わることがない。その結果、彼らはおうおうにして<お人よし>のレッテルをはられ、時として他の王侯らの笑い者になる。それにもかかわらずハプスブルグ家では、約束を反故にするのは矜持が許さないとばかりに、他国との信義を誠実に守るのが常だった。その結果としてこの権門は他のいかなる王朝にもまして長続きしたわけだから、<正直者に幸あり>ということにもなるだろうか。

 

 

江村洋『ハプスブルグ家』(講談社、1990年)89~90ページ。

 

 

 

 

ハプスブルク家 (講談社現代新書)

ハプスブルク家 (講談社現代新書)