谷崎潤一郎の文章から

痴人の愛』より

 

とにかく今までのナオミには、いくら拭っても拭いきれない過去の汚点がその肉体には滲み着いていた。然るに今夜のナオミを見るとそれらの汚点は天使のような純白な肌に消されてしまって、思い出すさえ忌まわしいような気がしたものが、今はあべこべに、その指先に触れるだけでも勿体ないような感じがする。―――これは一体夢でしょうか? そうでなければナオミはどうして、何処からそんな魔法を授かり、妖術を覚えて来たのでしょうか?

 

 

谷崎潤一郎痴人の愛』(新潮社、1947年)336ページ。

 

 

 

 

痴人の愛 (新潮文庫)

痴人の愛 (新潮文庫)