田中均の文章から

『日本外交の挑戦』より

 

  基本的に、政府広報と日本の対外発信を同一視してはならないと思う。通常、政府は政府の施策について権威を持った形で対外的に発信する。日本の場合、これは政府のスポークスマンとして官房長官が一義的に、それに加え、官房長官外務大臣の権威の下で官僚が詳細を述べるという形で行われてきている。海外では当然のことながら、大使や館員が日本の政策について任国で発信を行わなければならない。

 中国のように、共産党一党独裁の下では、ほとんどの場合に政府が直接発信するのみならず学者なども対外発信は共産党の見解の発信であることが多く、文字通り一つのボイスである。しかし、米国や欧州や日本のような先進民主主義国における対外発信は、多様な意見の発信であり、政府の方針だけが対外発信の中身でありうるわけがない。それをあたかも日本が政府の方針に沿って一つのボイスで発信するという色彩が強くなればなるほど、それは共産主義国家のようなプロパガンダではないか、ということになり、あまり信頼性がなくなる。

 政府が資金を提供し、政府が直接相手国国民に語りかける、あるいは、有識者を通じて政府の方針を語りかけさせる、といったことは慎重たるべきだろう。むしろ先に述べたように発信能力のある有識者を数多く育て、国内の議論を活性化し諸外国との自由な意見交換を通じて日本の考え方の合理性を解らしめる努力をするほうが、よほど効果があるのだと思う。

 

 

田中均『日本外交の挑戦』(KADOKAWA、2015年)210~211ページ。

 

 

 

 

日本外交の挑戦 (角川新書)

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